ネーム刺繍。現在はパッケージ化されてどのメーカーもコンテンツに不足があるということは考えられないが、ネーム刺繍ほど多種多様なアイテムに使われている刺繍はない。例えばハンカチ・タオル・かばん・作業服・・・etc 数え上げればキリがない。それ故にメーカーで用意している刺繍枠では対応できないアイテムも多いし、実際にネーム刺繍のプロたちは必要に応じてオリジナルの枠を作ったりしている。ネーム刺繍はソフトウェアや刺繍機の機能が充実していることもあって「簡単に誰にでもできる」と思われがちだが、突き詰めればネーム刺繍ほど奥の深い刺繍はないかもしれない。最近でこそ機械化が進んできたネーム刺繍だが、まだまだ職人さんの手で手掛けられたネーム刺繍も健在だし、機械化しているところもフォントにすごくこだわって、自作のフォントで刺繍していたりする世界である。
少し前置きが長くなったが、ネーム刺繍に限らず刺繍を行う場合、必ず必要になるのが『刺繍枠』。タジマ刺繍機では製品にする加工前の生地の状態であれば置き縫いという刺繍方法もあるが、完成品に刺繍をする場合は刺繍枠なしに作業することは不可能である。大抵の作業の場合においてお手持ちの刺繍枠で困ることはないと思われるが、防寒着や厚手の生地などに刺繍する場合、通常の刺繍枠ではセットできなかったり、刺繍途中で外れてしまったりすることがある。こうした場合はそれぞれのアイテムに特化した専用枠があれば良いのだが、ありそうで無いのが今回のテーマにもなっている『防寒着用の専用枠』である。
画像の枠はスプリング枠といって、タオルやマットなどアイテムに刺繍するとき使用される。つまみを握ると内側にわん曲するようにできていて、外枠の内側にセットした生地の上から装着する。つまみを離すと外側に広がり生地を固定する。ワンタッチで便利ではあるが、生地によってはスプリング枠の抑える圧力が足りずに刺繍途中に飛び出すことがある。
防寒着にスプリング枠を使おうとする場合はこの飛び出しのリスクを考える必要があるので、残念ながらお勧めできない。しかし生地が戻ろうとする力に負けずしっかり押さえてくれるのであれば、スプリング枠は理想的な形状ではないだろうか。そこでスプリング枠の形状はそのままにして、生地が戻ろうとする圧力に負けないような機構を取り付けたのが下の画像である。
これはスプリング枠に生地圧調整レバーを装着した枠である。防寒着といっても製品によって生地の厚さが異なるため、画像右上のような調整レバーを取り付けて生地圧を最適化できるようになっているのが大きな特徴である。単純に生地の戻りを押さえ込むだけでなく最適化することで生地に枠型などが付きにくくなっている。
実はこのレバー式調整枠は弊社の発案ではない。生地圧調整レバーの開発元に問い合わせたところ、現在は生地圧調整レバーを加工する技術を喪失していると聞いたので、新しく作り直したい旨を話し、許可を得たうえで弊社で作ったものである。また、当時と現在では刺繍機の各所に至り部品なども違っているので、台枠部分に関しては弊社で新開発している。
製造数が少なかったことからあまり知られている枠ではないが、スプリング枠と同じように簡単に装着できる上に防寒着をしっかり固定するので安心して使っていただけるのではないだろうか。現在は強力な磁石(ネオジウム)を使用したマグネット枠なども販売されているので防寒着にどの枠を用いるのか悩みどころではあるが、選択候補のひとつとして、このレバー式調整枠のセットも検討に値する製品であることは疑いようがない。